馬の蹄と蹄機作用

「蹄なくして馬はなし」と言われるほど、馬にとって蹄は重要な器官です。

足の怪我(疾患)でレースに出られなかったり、放牧に出されるのをよく耳にします。

蹄はとても大事。

馬の蹄の構造

馬の蹄(ひづめ)は、もともと中指だった部分が進化したもの。

馬は中指の爪の部分で立っているようなものなのです。

もともと爪だったところは蹄の硬い部分で、比較的柔らかい後ろの方は指の腹にあたります。

蹄鉄は「爪」の部分に打つので、馬は痛みを感じずに済むのです。

蹄は硬いというイメージを持っている人も多いと思いますが、それは蹄の一部のこと。比較的柔らかい部分もあります。

馬の蹄は横から見た時、前から順に3つの部位に分けられます。

  • 蹄尖部(ていせんぶ)
  • 蹄側部(ていそくぶ)
  • 蹄踵部(ていしょうぶ)

蹄尖部と蹄側部は蹄骨があるため硬くなっていますが、蹄踵部は軟骨などの柔らかい組織でできているため、歩くたびに変形しています。

蹄の前の部分である蹄尖部・蹄側部は蹄壁(日ごろ目にする蹄の部分)が厚く、内部も蹄骨が葉状層によって結合されているため、硬い作りになっています。

その一方、蹄踵部は柔らかい組織でできており、伸縮して歩くたびに変形しています。

蹄鉄の釘は、蹄の後ろの部分の変形を邪魔しないよう、硬く変形しにくい部分に打たれます。

蹄機作用

馬の蹄は後ろの部分が柔らかくなっており、着地のたびに伸縮しています。

体重がかかるときには広がり、地面から足が離れる過程では収縮する。

常に変形しているため、使用済みの蹄鉄の後ろの部分には蹄が伸縮して生じた擦れた跡が見られます。

歩くたびに蹄が広がったり狭まったりするこの機能は蹄機作用(ていきさよう)と呼ばれます。

足を地面につける際は蹄の後ろの柔らかい部分から先につき、蹄の前へと順に着地します。

地面から離れる時は後ろの部分から先に離れ、硬い部分で地面を蹴っています。収縮は蹄の後ろの柔らかい部分が離れ、蹄で地面を蹴る過程で生じます。

地面を踏みしめると蹄が広がる蹄機は、着地の衝撃を和らげると考えられています。ようはショックアブソーバーですね。

蹄の水分は多すぎても少なすぎても都合が悪いため、必要に応じて油(蹄油)を塗って水分のコントロールもします。

蹄機作用は着地時の衝撃緩和機能の他に、血液の循環を助けるポンプとしての役割も担っています。

血液循環ポンプとしての蹄機作用

馬の蹄の中には多くの血管が走っています(馬の蹄の血管はこちら。グロいと感じる人もいるので注意)。

蹄の裏にも血管が通っているため、硬いものを踏んで足の裏を傷めると内出血(血豆のようになる)などで炎症を起こします。これがよく耳にする挫跖(ざせき)です。

心臓からもっとも遠く低い場所にある蹄から心臓への血液の送り返しは、心臓による通常の血液循環では賄いきれません。

蹄から心臓への送り返しに足りない部分を補っているのが、蹄のポンプ作用です。

蹄が第二の心臓とも呼ばれるのは蹄機作用が重要な役割を果たしているため。

着地のたびに蹄が伸縮することで血管が圧迫され、心臓へ向かう血流ができます。

怪我をして他の足に負担がかかると、痛めていない肢への血流まで悪くなってしまう。そして蹄葉炎(ていようえん)などの症状にもつながります。

脚の故障が馬にとって致命的になるのは、蹄機が働かなくなるケースがあるのも一因です。

蹄機作用でどのくらい広がるのか

蹄が着地時にどのくらい伸縮をしているかについてはJRAの研究があります。

測定箇所は「足の裏」ではなく後面です。広がり方は前脚より後ろ肢の方が大きく、手前(走る時に前に出る肢)でも異なりますが、大きいものをおおよその数字として記載します。

  • 常歩で 5mm弱
  • 速歩で5.5mm ~ 7mm弱
  • 8m/s の駈歩 11mm~13mm弱
  • 12m/s 駈歩 14mm ~ 16mm

こちらは速歩のスローモーションビデオです。実際に測ってみることができます。

蹄鉄を打っている装蹄師馬の蹄鉄はどうやって履かせるの?『装蹄』の手順を知る蹄鉄蹄鉄蹄鉄装蹄蹄鉄の歴史

蹄機(ていき)について – 競走馬総合研究所

蹄機と装蹄 – JRA競走馬事故防止対策委員会

「蹄機作用の実態-走行時における蹄踵間距離の変化量測定法の開発-」,『馬の科学』Vol.46 No.2

“Blood Pumping Mechanism of the Hoof” – eXtension

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