馬はビール好き
ビールの原料は麦芽(大麦)やホップ。形は違えど馬がいつも食べている食事と似たようなもの。そのためビールが好きな馬は多いようです。
味が好きでも体に悪ければ与えるわけにはいきませんが、馬の肝臓ではアルコール脱水素酵素が生産されているので大丈夫。
人間はセルロースを処理する器官としての盲腸は退化してしまいました。しかし馬は日ごろからセルロースを体内で分解し、エネルギーとして利用しています。発酵したセルロース生産物を分解する過程で用いられるのがアルコール脱水素酵素。
ビールもこのアルコール脱水素酵素によってすみやかに分解されます。食べ物の消化に用いている酵素でアルコールも代謝されるため、ビールを飲んだからといって馬の身体に特別な影響が生じることはないようです。
早い話がアルコールもごはんも同じ代謝過程なので、馬にとってはいつもの食事と変わらないといったところです。
ホップは蹄葉炎予防の効果が示唆されているため、馬にとってビールはむしろ健康食品にあたるかもしれません。発酵過程で無効になっていなければ、ですけどね。
好み次第のところはありますが、ビールやウイスキーだけでなく、ワインなど他のアルコールもイケる馬もいます。
ビールを飲ませるといいことがある?
人間の数倍の体重の馬にとって、ビンや缶一本のカロリーも栄養素もたかが知れており、ほぼ無視できる程度です。
EquiSearchの記事の記事では、ビールの味が好きな馬ならば、ビールを水に混ぜることで、より多く水を飲ませることができるかもしれない、としています。
脱水症状が懸念される時や輸送時に多く水を飲ませることができれば、潜在的にいい効果が得られるかもしれません。
スポーツドリンクを混ぜるのと同じく水を飲ませておきたい時に使えるということでしょう。
疝痛治療に使える?
疝痛を起こし瀕死の状態の馬にビールを与えたら治ったケースが報道されたことがあります。疝痛は腹痛のことです。
肩に怪我を負い、(おそらく跛行のストレスから)疝痛に至った馬の治療がうまくいかず、何をしても効果がない。飼い主は最期をみとる覚悟を決める。
ふと昔の農家の療法を思い出してビールを与えたところ、あっという間に回復に向かったという話。
思い出した話というのは「炭酸の入ったものを動物に与えると、ゲップが出て疝痛が治る」というもの。
実際にビールを与えたところゲップをし、すぐに反応が現れた。さらにいくらか与えたところ、腸が働きを取り戻したと飼い主は語っています。
ただ、基本的に嘔吐ができない馬にこの方法が有効かは怪しいところがあります。馬の獣医は「(ビールを飲ませたら治ったという話を聞いて)馬はビールが好きなんだなと思った」と語っています。
1914年にイギリスで出版されたOfficial Field Service Pocket Bookでは、戦場で獣医がおらず、薬もない時の馬の疝痛の対処法として、
- タンブラーグラス半分のラムかウイスキーを少し暖かい水に混ぜるか、
- 1パイント半の暖かいビールにスプーン一杯のショウガをまえて与える
と記載しています。
疝痛の原因はいくつもあるため、アルコールが効くケースもあれば、そうでないこともある。「戦時中」かつ「医師がいない時」の対処法なので、現在の価値観で参考にするには微妙なところがあります。
注意点
注意点としては、亜硫酸塩などの防腐剤にアレルギーが出る馬もいるかもしれないこと。また、馬はゲップができないため、炭酸を多く摂りすぎると疝痛の原因になる懸念もあります。
日本では添加物の問題には気を付けたほうがいいかもしれません(ビールへの添加物の制限が厳しい国もある)。
飲酒馬に乗って道路を歩いたら道交法違反?
道交法では馬は自転車と同じ軽車両。馬に乗って道路を歩くのに、許可も免許も必要ありません。
ただし、軽車両としての法規には縛られるため飲酒運転はアウト。騎乗者が飲酒状態で馬に乗って道路を移動すれば飲酒運転で処罰されます。ただし、軽車両の酒気帯び運転なら罰則がなかったりします。
飲酒騎乗はアウトなのは分かる。ならば、飲酒馬騎乗は?
公道で飲酒馬を「運転」すると「整備不良」で違反と耳にしたことがある人も多いと思いますが、これは怪しい。
道路交通法では確かに整備不良車両の運転は禁じられています。
道路交通法
(整備不良車両の運転の禁止)
第62条 車両等の使用者その他車両等の装置の整備について責任を有する者又は運転者は、その装置が道路運送車両法第3章若しくはこれに基づく命令の規定(道路運送車両法の規定が適用されない自衛隊の使用する自動車については、自衛隊法第114条第2項の規定による防衛大臣の定め。以下同じ。)又は軌道法第14条若しくはこれに基づく命令の規定に定めるところに適合しないため交通の危険を生じさせ、又は他人に迷惑を及ぼすおそれがある車両等(次条第一項において「整備不良車両」という。)を運転させ、又は運転してはならない。
道交法で整備不良車両の運転を禁じていますが、具体的な適合基準は「道路運送車両法」で示されています。
問題は「道交法」と「道路運送車両法」では軽車両の定義が異なっていること。
下に書き出したように、道交法では馬が軽車両に含まれるのに対し、適合基準を示す道路運送車両法では馬そのものは除外されています。
道路運送車両法で軽車両に含まれるのは馬車や馬ソリなど牽引されるもので、馬そのものは軽車両には当たらないことになります。
軽車両の定義 道路交通法
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十一 軽車両 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽けん引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。
「そり及び牛馬を含む」
軽車両の定義 道路運送車両法
第二条 この法律で「道路運送車両」とは、自動車、原動機付自転車及び軽車両をいう。
4 この法律で「軽車両」とは、人力若しくは畜力により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、政令で定めるものをいう。
「陸上を移動させることを目的として製作した用具で」
軽車両の定義 道路運送車両法施行令
(軽車両の定義)
第一条 道路運送車両法(以下「法」という。)第二条第四項の軽車両は、馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカーをいう。
「馬車、牛車、馬そり」
道交法では馬も軽車両に含まれるのに対し、車両整備の観点からは除外されている。つまり馬は「車両として」「整備」を義務付けられていないため、整備不良違反にもなりません。
飲酒馬騎乗は飲酒騎乗よりも危険そうですが、少なくとも道交法にはひっかからないということです。
とはいえ都道府県ごとに定められている細則で規定されている可能性は否定しきれないので、お住いの地域の警察のサイトで確認してみてください。
酒の影響がなかったとしても飲酒馬により何らかの損害を与え、最悪人にけがを負わせれば、立場は悪いものになるでしょう。
もっとも警察は馬のアルコール血中濃度を測る術をもっていませんし、どの程度なら飲酒馬で整備不良となるかの基準すらない。
結局飲酒馬であることを立証できないので無罪放免になるでしょう。
凄く詳しい人が記事を書いてるなぁ、と感じました。
獣医さん?