贈られた馬の口の中をのぞくな
ヨーロッパにはこんなことわざがあります。
英語では Don’t と Never の二つの表現がありますが、意味はまったく同じ。
- Don’t look a gift horse in the mouth
- Never look a gift horse in the mouth
口の中を見てはいけない理由は、歯を見れば馬の価値が分かってしまうため。
「贈られた馬の口の中をのぞくな」の意味
「贈られた馬の口の中を覗くな」は、「もらいものの価値を勘ぐるな・詮索するな・あら捜しをするな」といった意味があります。
馬の歯から馬齢が推測できるため、馬の口の中を覗くことは馬の年齢を確認する行為になります。歯を見ることでその馬の価値を値踏みすることになり、悪くすれば贈られた馬の価値を疑っているとも受け取られかねません。
贈り物の価値を推し量るような贈り主に対して失礼なことはすべきではない。つまり「贈られた馬の口の中を覗くな」は、贈られたものを値踏みするなと言っているわけです。
語源
「贈られた馬の口の中を覗くな」の語源は中世の作家、ジョン・ヘイウッドの1546の文章にある “No man ought to looke a geuen hors in the mouth.”です。
さらに遡ると、A.D. 400年のラテン語の「エフェソの信徒への手紙」にいきつくようで、ジョン・ヘイウッドもこのフレーズを参照していたと考えられています。
‘Noli equi dentes inspicere donati’
(Never inspect the teeth of a given horse:もらった馬の歯を調べるな)
馬の歯
馬の歯の本数は雄雌で異なり、牡馬が42本、牝馬が38本。上下合わせて4本の犬歯は牡馬にしか生えないため、牝馬との本数の差が生じています。
このうち狼歯2本は生えていないケースもあるため、実際には牡馬が40~42本、牝馬が36~38本となります。
人間は男女変わらず上下合わせて32本。親知らずが生えてこなければ28本なので、男女差ではなく個人差で28~32本の歯が生えています。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「女性よりも男性のほうが歯の本数が多い」と考えていました。この根拠となったのが牝馬と牡馬の歯の本数の差。(『動物誌第二巻』)
19歳年下の嫁さんを含め、数人の女性に口を見せてもらえばすぐに分かるのになぜこんな凡ミスをしたのか。ある種の謎となっています。
たまたま口の中を見せてくれた女性に親知らずが生えていなかったのか。あるいは「娶った嫁さんの口の中を覗くな」という格言でもあったのか。
歯の配置と生え変わり
馬の歯は口にしたものを噛んで食いちぎる前歯・切歯と、咀嚼するための奥歯・臼歯に分かれています。牡にしかない犬歯は切歯の後ろに生えいます。
前歯と奥歯には歯槽間縁(しそうかんえん)と呼ばれる大きな隙間があります。この歯槽間縁の部分に手綱につながるハミをかませます。
馬を使役できるのは、歯槽間縁があるお陰と言えます。
- 切歯
- 歯槽間縁
- 臼歯
馬にも乳歯と永久歯があり、順に入れ替わり5歳くらいには永久歯が生えそろいます。このため若い馬であれば、生えている歯の種類で馬齢を推測することができます。
馬齢が推測できる馬の歯の成長と摩耗
馬の歯は年に 2 ~ 3 mmのペースで成長し続けます。
伸びてくる一方で咀嚼しているうちにすり減り、歯の先は平らに削れ断面が見えるようになります。
馬齢が上がるほど歯は伸び、歯の先は摩耗して減るため、歯の断面に現れる象牙質エナメル質やセメント質の割合が変化します。
歯の断面は年輪のように目で確認できるため、馬の年齢を推定することができるわけです。
馬の性質
馬の歯の表面はセメント質で覆われており、エナメル質と象牙質はその内側にあります。
ものを食べるたびに削れて平らになる一方で、歯が伸び続けることで削れた分が補われます。
歯を守るために硬いエナメル質で覆われた人間と違い、馬の歯は削れることが前提の作りと言えるでしょう。
削れ方がアンバランスになると咬合(かみ合わせ)に問題が生じ、治療が必要になることもあります。
歯の断面に現れる文様は、どこまで削れたかによって変わってきます。
分かりやすいところでは、5歳になると溝がなくなって歯は平らになり、7歳ではくぼみがなくなります。10歳では歯の形は丸く見え、17になると三角形になる。
文様ばかりか歯の形そのものも違うため、馬の扱いを心得た人ならば年齢を推察できるというわけです。
馬齢 馬の年齢の数え方
寓話では、人間が馬の歯をもらって、60歳まで、歯が大丈夫で、その後は、何の動物の歯をもらったか?