馬も鞭で叩かれれば痛い 馬は人間より敏感な可能性が科学的に示唆される

私たちが想像しているよりも、馬はムチを痛がっている可能性がある
2020年11月には、安楽死をさせた馬と死んだ人間の皮膚をサンプルとして分析した結果、皮膚表面の神経に人間との有意なちがいがなかったという研究も報じられています

競馬につきもののゴール前の鞭の使用。馬を追う騎手が鞭を入れる姿は見慣れれば当たり前の光景となりますが、はじめて目にした人には鞭で打たれている馬が痛々しく映るようです。

とくに女性が「かわいそう」と口にするのを耳にすることが多い。

馬に携わっている人ほど馬の反応や馬の皮の厚さを感じているだけに、鞭を入れられてもさほど痛くないと考えられていました。あくまで合図であるという考え方でした。

しかし2000年に入ってからは動物愛護の観点からヨーロッパで鞭の使用に制限が課されるようになり、鞭と馬の関係の研究も盛んに行われるようになりました。

さまざまな知見の積み重ねにより、現在では馬は想像していた以上に痛みを感じている可能性が指摘されています。

馬にとって鞭は想像以上に痛いかもしれない

獣医病理学者のリディア・トン博士の研究により、人間より皮が厚く、その体重ゆえに痛みにも強いという考えは予断にすぎないことが明らかになっています。

この研究では鞭が当たりやすい部位である脾腹(鞍の後ろに位置する脇腹)に着目し、馬と人間の同じ部分の皮膚を比較しました。

現在では脾腹への鞭は禁じられています

馬の脇腹の皮膚はヒトの同じ部位の皮膚より 1mm厚いものの、表皮に限れば馬のほうが薄いことが分かりました。

人間の表皮の厚さが 0.08mm なのに対し、馬の表皮の厚さは 0.05mm。0.03 mm の差はごくわずかに感じられますが、人間の表皮は馬の1.6倍と考えると違いは大きいと言えます。

馬と人間の表皮の厚さ Credit:Paulic Report

さらに馬の表皮の下を通る神経線維も、ヒトよりも馬のほうが多いことが分かりました。

神経線維を赤く染めると、人間と馬の神経繊維の密度の差がはっきりと分かります。

赤く染まったところが馬の神経線維

神経線維が多く通っているということは、より多くの神経終末が走っていることを示唆しています。

馬の表皮はヒトの表皮よりも薄く、さらに神経線維も多く通っている。素直に考えれば、馬は鞭を入れられれば強い痛みを感じるということになります。

その痛みが人間と同じとは結論づけられませんが、「馬は鞭で叩かれてもそれほど痛くないだろう」とも言えなくなりました。

▼豪ABCのレポート

馬は痛みを隠す

自然界で弱っている姿を見せれば他の動物に襲われやすくなり、命の危機にさらされることになります。そのため野生動物は病気や怪我を負っていること隠します。

捕食される側である草食動物の馬ならなおのこと、他から気取られないように振舞います。

つまり馬が痛がっていないように見えたからといって、痛みを感じていないとは限りません。

最近では鞭にパッドをつけることを義務付けられるようになりましたが、パッドの付け根の部分が当たれば痛いという可能性も示唆されています。

鞭を使うのは痛みを与えるためではなく気合いを入れるためというなら、痛みを与える道具の使用は不要なはずです。

ここまでのまとめ

  • 馬の皮膚は部位によっては人間の皮膚よりも薄く、痛みに対してより敏感かもしれない
  • パッド付きの鞭でも、パッドの付け根と芯の接合部は硬い
  • 捕食される側である草食動物は痛みを表に見せない傾向があるため、馬の様子から痛みを感じているかを判断することは難しい

JRAの対応

JRA・地方競馬では2017年1月1日より、海外レースに合わせて鞭の使用はパッド付きのものに制限しています。

(2)パッド付鞭の義務化
ルールの国際調和及び動物愛護の観点から、競走において騎手が使用する鞭を、パッド付鞭に限定します。

○運用開始日
2017年1月1日(祝・日)

JRAニュース

パッドの入った部分の痛みは軽減されても付け根の部分が当たれば痛みを感じる可能性はあるため、これで万事解決とは限りません。

さらに鞭の持ち方がフォアハンドかバックハンドかで使い方も強さも変わることから、規制が強化される可能性もあります。

バックハンドの鞭 credit Liss Ralston

痛いのか痛くないのかは馬に訊いてみないと分からない

感覚器と感覚そのものは別であるため、競走中の馬がムチによってどの程度の痛みを感じているかは馬に訊いてみないと分かりません。

場所によっては皮は薄く神経繊維も多く通っていることから、これまで考えられていた以上に痛みを感じている可能性が示唆されたことになります。

少なくとも皮が厚いし質量があるから痛みは感じていないだろうとは言えなくなりました。そもそも馬の皮は牛よりも薄い。

ムチを使っても使わなくてもレースや結果は変わらないというデータもあるため制限は増えていくと思われます。ゴール前の叩き合いという言葉が死語になる日も遠くはなさそうです。

【研究】馬をムチでたたいても速くなったり制御しやすくなったりはしない〔5chまとめ〕

Horse Whip 2015-3-24 CATALYST – 豪ABC

Does whipping actually hurt a horse? 2015-3-26 豪SBS

whips hurt horses. Animals Australia

It turns out that whipping DOES hurt horses. Mamamia