蹴る馬と蹴らない馬

馬蹴る跳ねる

馬は蹴るか蹴らないか。

競馬中継でもパドックで蹴り挙げている馬は映るので、「蹴らない」というのは無理。
蹴りぐせがある馬の尻尾には赤いリボンがつけられていることも広く知られています。

馬は噛む?噛まない?では、噛むかどうかは馬によると書きましたが、それと同じように蹴る馬もいれば蹴らない馬もいます。

「蹴り」が「噛む」と大きく違うのは、「噛む」では指などの末端を食いちぎられることはあっても、直接命には関わるわけではありません。

それに対し「蹴る」では命を落とす事故もある。死亡に至らなくても、顔面に大怪我を負ったというニュースはそう珍しくはありません。

馬に慣れていない人が馬を驚かせたり怒らせて蹴られたわけではなく、日頃から馬に接している人が憂き目にあっています。

当然ながら、ニュースにならない程度の事故は多いはず(ハインリッヒの法則に基づくなら29倍)。

 

欧米の馬は蹴らないとは言われるが…

欧米の馬はあまり蹴られないと言われます。

蹴りぐせ・噛み癖がある馬の「赤いリボン」の発祥は日本陸軍のようで、日本は昔から蹴る馬が多かったことが推測できます。

実際、日露戦争の頃ですら日本の馬の気性は荒く、外国人アドバイザーも驚いていたようです。

日本では明治・大正まで去勢が一般的に行われることがなく、悍馬が好まれたと思われるフシもある。そのため歴史的に動物全般に従順さを求めていなかったということも考えられます。

さらに馬に騎乗して戦闘・作戦を行う文化はほとんどありませんでした。騎兵は維新後に西洋式の騎兵隊で初めて導入され、運用の仕方が分からぬまま現代戦の時代に突入して雲散霧消となりました。ちなみに騎兵の運用に試行錯誤していたのが『坂の上の雲』でも登場する秋山好古です。

日本は馬との付き合いの歴史が浅く、馬との付き合い方が下手という見かたもあります。しかし日本でもストレスのない環境で育てられた馬は蹴らないとも言われます。

戦後しばらくは田舎では普通に馬が歩いていたとも耳にするので、どちらかというとばん馬と競走馬・軍用馬の扱いの違いがあったのではないかと思います。

不用意に馬の後ろにいると、どこでも「馬の後ろに立つな」と言われます。しかし後ろにいても蹴られていないことの方が多いのも事実です。


欧米では日本の競走馬よりも多くの馬が生産されています。フランスで生産される馬は、単一品種だけでも日本のサラブレッドよりも多い。

ロンドンではホースガードがジーッと立っており、騎馬警官が街中を闊歩しています。それでいて全く混乱は生じません(嫌がったりするケースや事故はある)。

こういったことから馬の扱いの歴史を感じますが、パレードや街中で活動する馬が大人しいのは品種も影響している可能性もあります。個性や慣れはあるにせよ、従順な馬をかけ合わせているので、サラブレッドがほとんどという日本の状況とは違います。

警官や騎兵ばかりでなく、街中でも普通に馬を見ることもあります。

19世紀末のロンドンでは馬車が増えすぎて、このままではボロ(馬糞)で道が埋もれるのではないかと懸念されていました。馬が街中で働くのは当たり前のことでした。

馬との付き合いが長く、歴史を感じさせる欧米ですが、「蹴らない馬」であっても事故は起こっています。検索すれば、ひどい事故のニュースや動画がいくらでも出てきます。

欧米は馬の数も乗馬人口も桁外れに多いために事故が増えるのは当然ですが、馬が蹴るという事実は否定できません。

 

馬に蹴られた実際の事故

日本では2009年にJRAの蛯名信広調教師が調教中に胸部を蹴られて亡くなっています。2013年には長野の乗馬クラブで、暴れる馬をなだめようと近づいた会員が腹を蹴られて死亡。

2015年には笠松競馬の柳江仁調教師が死亡しています。柳江師の死因は公表はされていませんが、状況から頭を蹴られたと考えられています。

海外、というか英語圏の事故なら「kicked by horse」で検索すればたくさん出てきます。

 

蹴るか蹴らないかは認識の問題

交通事故は誰でも起こしえます。毎日どこかで事故は起きており、何千分の一、何万分の一かの確率で事故の当事者になる可能性はあります。

運転がうまく、安全運転を心がけていれば事故の確率は減ります。それでも起こりえます。

「事故は起こしうる。だから保険に入っているんじゃないか」という人でも、事故のリスクを認識しているなら車の運転はできるだけ避けるでしょう。何千分の一の確率は0ではありません。けれど、自分が当事者になることはあまり考えない。


「馬は蹴らない」という表現には、交通事故と同じ構図があるように思えます。

海外でも蹴られて死亡する事故は珍しくない程度に発生しています。

人間同士ですら、ふざけてやった行為で他人に一生の障害を負わせることもあります。

「動物のやることだもの。事故が起きるのも当然さ」と、馬は蹴らないとする人がいる一方で、「いやいや、事故は起こるんだから気をつけないとだめだよ」とする人がいる。

大型動物に接している人なら「馬は蹴らなくても事故はある」と認識していますが、そうでない人には分かりにくいところだと思います。

「ストレスの少ない環境で育てられた馬は攻撃する意図をもって蹴らないし、避けようともする。けれど事故は起きる」とすれば、誤解もなく理解されやすいのではないでしょうか。

馬 蹴る馬のキック力は体重とほぼ同じ 微妙な結果に終わった実験 乗馬風景大学馬術部員、馬に頭を蹴られる事故2018/11/23

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