欧米の首都や大都市では、街中をパトロールしたり、パレードやイベントの警備に当たっている騎馬警官を目にします。ときには騎馬警官そのものが観光資源になっていることも。
イギリスではロンドンのホースガーズの交代の際にも騎馬警官が警備をしており、軍を警官が守っている風情となったりもします。
騎馬警官は見栄えがよく威圧感を与えないなど、周囲にポジティブなイメージを与えます。
警官が歩いていても見向きもされませんが、同じ警官でも馬に乗っていればカメラを向ける人は多くいます。
もちろんパレードの先導といった、警備以外の場でも騎馬警官は活躍しています。
欧米の警察が現代でも馬を警備に用いるのは、馬のもつイメージのよさばかりでなく、実務上のメリットもあってのことです。
騎馬警官のメリットの一つは、馬の背にまたがった高い視点から遠くを見渡せること。広い範囲を目で追えるため、開けた場所での警備にも適しているそうです。
もう一つは狭い路地や車両禁止の場所でも入ることができること。道路の整備されていない場所や、車両が入れない公園でも気にせず巡回できるのは大きな利点です。
騎馬警官は巡回やパレード、イベントなどの雑踏警備に出動する印象が強いのですが、デモの警備にも対応しています。
騎馬警官に限らず動物を扱っていれば事故はつきもの。
デモや暴動で、つつかれたり物が当たって興奮したら、蹴ったり立ち上がって周囲を危険にさらさない?と思っていたのですが、どうやら大丈夫らしいです。
▼歩道にいたデモの参加者や傍観者を追い払う騎馬警官(カナダ)
追い払われている人も、ビデオを撮るのに勤しんでいる平和な雰囲気です。が、これを車両でやると危険が生じるし、警官がやろうとしても素直に言うことを聞かず、もみ合いになりかねせん。しかし騎馬だとあっさりと。
▼デモ隊に突進して道路封鎖を解かせる騎馬警官(イギリス)
考えてみれば昔は騎馬で鎮圧するのは当たり前でした。同じことを車両でやると市民を危険晒したと非難轟々、法的にも問題が生じそうですが、騎馬ならそこまで批判されないし…
もっとも、実力行使に出たらもみ合いにはなる。現代では直接手出ししないという前提の上に成り立っているので、あくまで群衆コントロールのために用いられています。
デモ・抗議が当たり前の国だからこそ、もみ合いや暴動に発展するリスクへの対処として実用的なのかもしれません。
▼サッカーファンの暴動(イギリス)
これはデモ・抗議ではなく、純粋?な暴動。馬に手を出して速攻で取り押さえられる人も。
日本の警察騎馬隊は信任状捧呈式の馬車列警護といった儀仗、交通安全教育やパトロール、パレードの先導などを行っており、イメージアップのための広報的な色合いが強いものになっています。
ちなみに欧米では必要がなければ馬糞(ボロ)はそのままのに対し、日本では随行者が回収しています。こういったところにも、ウン用思想の違いを感じることがあります。
現代では平和なイメージの日本の騎馬警官ですが、戦前の警察騎馬隊(騎馬憲兵含む)は暴動の鎮圧に当たるなど、荒っぽい仕事もしていたようです。
もっとも、荒っぽかったのは警官だけではなく、市民も同様に実力行使に訴えていました。そういう意味で、当時の日本では騎馬警官は有効だったのかもしれません。
日本人はおとなしいと言われますが、歴史的に見ればそうでもない。左翼・学生運動を除いても、大規模な暴動は少なくありません。
- 日比谷焼打事件(明治)米騒動
- 米騒動(大正)
- 電車焼き討ち(明治・大正)
- コザ暴動(米統治時代の沖縄)
江戸時代にも一揆や打ちこわしが多々ありました。
募りきった不満から暴動に至ったものが多く、要求が通ればそれでおしまいというケースが多かったようです。政権転覆といった要素はなかったのです。ヨーロッパで生じた市民革命に至ったような、体制や制度への干渉を目的とした暴動とは趣が違っています。
日本でもっとも市民革命に近かったのはおそらく一向一揆です。越前では国までできた。しかし徳川治世下では、そういった思想が一般化しない程度に要求に応えていたのでしょう。
騎馬警官の話から逸れましたが、現代でも警備に馬を使っているのは、歴史的に馬を多用してきた国です。つまり歴史的な文脈に根ざしている部分が大きい。
実用面でのメリットを見いだして、あとから導入した訳ではありません。
日本では騎馬警官についての実務面での運用思想がないことや、必要な場面が限られるため、騎馬警官を増やすメリットは無さそうです。
日露戦争で騎兵の運用を研究した秋山好古からして、現代戦の時代となったために騎兵のメリットを見いだせないままでした。
「危険だから安易に馬に近づくな」の意識が強すぎれば、群衆近くでの運用も叶いません。事故がどの程度の頻度なら許容範囲かを「冷静に」議論することも、今の日本では難しい。
「馬は蹴らない」と言えるくらい従順に馬を育てられるか、その手間をかけられるか、という問題もありますね。
[…] 参考:https://umas.club/st10564 […]