家畜としての動物 なぜ犬猫だけでなく、馬も人間に寄り添えるのか

  • 犬:890万3千頭
  • 猫:964万9千頭

ペットフード協会による2018年全国犬猫飼育実態調査の「国内で飼育されている犬猫」の頭数です。動物愛護法でも特別扱いされている犬猫は人間に最も身近な動物で、日々癒やされている人は多いことでしょう。

癒やしは犬猫の特権かというとそういうわけでもなく、ハムスターのような小型の動物はもとより、馬のような大型動物に癒やされる人もいます。

なぜ動物は人間を癒やしてくれるのか

動物と触れ合う動物セラピー「動物介在活動(Animal Assisted Activity)」で用いられる動物には、特に人間を癒す力があるとされています。では、なぜ動物は人間に寄り添い、癒やしを与えてくれるのか。

動物は言葉を使わないから、あるいは利害関係を考えることがないからといったことが理由として挙げられます。しかし身も蓋もない言い方をすれば「家畜だから」ということになるでしょう。

人間が利用しやすい性質をもつ野生動物を捕まえ、人間に都合のいい個体を選別して繁殖させてきた。扱いが難しい個体は繁殖そのものが行われないので、素直さという特徴による淘汰が行われてきたわけです。

そのため家畜となっている動物は、多かれ少なかれ人間に寄り添うことができます。

では「家畜」にはどのような特徴があるのか。

牛も豚もペットになりうる

もし犬猫が人間になつくことのない種であったなら飼うことが難しく、そもそも飼う意味も見いだせません。従順さがなければ愛玩動物としてこれほど家庭に入り込むことはなかったことでしょう。

人間になつくからこそ家族の一員となり、ペットとして人気がある。愛玩動物であるためには人間になつくことが必要条件なので、ペットが人間に従順なのは不思議でもなんでもないのです。裏を返すと人間に都合の悪い動物は愛玩動物にはなっていません。いくら可愛くても「あらいぐまラスカル」でおなじみのアライグマはペットにするのは無理ですし、カワウソも一般的にはペットとして飼うのは難しいとされています。

人間になつくことが愛玩動物の条件ならば、ペットとして扱われていない家畜は従順でないのか。そんなことはないですよね。個体差はあれど、コンパニオンアニマル(ペット)として育てられれば、犬猫のように人間とのコミュニケーションが取れる存在になります。野生動物には無理でも「家畜」なら人間に寄り添えるケースがあるのです。

ウシ

ニワトリ

ブタ

どれもかわいいですね。家畜に分類される動物は、育て方によっては人に懐くケースが少なくありません。犬猫ばかりか牛豚まで従順な理由は、その性質がなければ家畜として飼養されることがなかったからです。では、どんな性質が家畜に必要なのか。

 

家畜化の条件と家畜の特徴

野生動物を人間が飼い慣らし、人為的に交配させて代を重ねてきた動物が「家畜」と呼ばれます。野生動物を捕獲してしつけることで人間に慣らすのは「飼いならした動物」であって、家畜には分類されません。

飼いならした動物と家畜化された動物。いずれも人間の役に立つという点で違いはありませんが、家畜は人間の都合のいい性質をもつ個体同士を掛け合わせることで、より都合のいい存在につくりあげてきたのです。

一般的な家畜化された動物の特徴は次の3点になります(以下Wikipediaの家畜化と『銃・病原菌・鉄』ジャレド・ダイアモンドより)。

  • 気性がおとなしくなり、ヒトに服従しやすくなる。
  • 脳が縮小する。
  • ヒトにとって有用な部位が肥大化する。

気性がよくなって人に服従するのは扱いやすい個体が選別されて繁殖に用いられるからです。競走馬の場合は早く走ることが優先されるために気性難でも繁殖に用いられますが、一般的にはおとなしいほうが好ましいのは当然ですよね。

おとなしい個体の選別で人間に従順になるのなら、どんな動物でも家畜化されそうなものですが、大型の雑食・草食の哺乳類で家畜化されたのは、わずか14種です。

二十世紀までに家畜化された大型草食哺乳類

有史以来、多くの野生動物の家畜化を試みてきた形跡が残っています。しかし二十世紀までに家畜化に成功した大型動物は、わずか14種。家畜化がうまくいかなかった理由はさまざまで、シマウマのように人間になじまないために家畜化が無理というケースもあれば、ゾウのように育つまでに時間がかかり、飼養には効率が悪いという種もある。

そんな中で家畜化に成功した大型哺乳類は次の14種。

  1. ヒツジ
  2. ヤギ
  3. ウシ
  4. ブタ
  5. ウマ
  6. ヒトコブラクダ
  7. フタコブラクダ
  8. ラマおよびアルパカ
  9. ロバ
  10. トナカイ
  11. 水牛
  12. ヤク
  13. バリ牛
  14. ガヤル

家畜候補となりうる148種類の大型哺乳類のうち、家畜となりえたのはたった14種、1割程度となっています。なぜそんなに少ないのか。

大型動物の家畜となる条件

進化生物学者ジャレド・ダイアモンドは『銃、病原菌、鉄』で、大型草食哺乳類を家畜とするには6つの条件のすべてを満たす必要があると書いています(抜粋はWikipedia家畜化の条件より)。

  1. 飼料の量
    多くの種類の食料を進んで食べ、また生態ピラミッドの下位に位置する飼料(トウモロコシやオオムギ)を、そのなかでも特にヒトが食べられない飼料(秣〈まぐさ〉や牧草など)を主食とする動物は、飼育に多くの出費を必要としないため、家畜化されやすい。純粋な肉食動物は、たくさんの動物の肉を必要とするため、家畜としては不適であるが、例外として、残飯で飼育できるうえに害獣を狩れるものは家畜化される場合がある。
  2. 速い成長速度
    ヒトより速く成長して繁殖可能になる動物は、ヒトの手で繁殖させることにより、ヒトにとって有用な性質を具える家畜へと比較的短期間で変容させることができる。一方で、ゾウのような大きな動物は、役畜として有用になるまでに長い年月を要する点で、家畜には不向きである。
  3. 飼育下での繁殖能力
    飼育下で繁殖したがらない動物は、ヒトの手で有益な子孫を得ることができない。パンダやアンテロープなど、繁殖時に広いテリトリーを必要とし、飼育された状態では出産が難しい動物は家畜にならない。
  4. 穏やかな気性
    大きくて気性の荒い動物を飼育するのは危険である。例えば、アフリカスイギュウ[注 4]バッファローは気まぐれで危険な動物である。アメリカのペッカリーやアフリカのイボイノシシとカワイノシシ(英語版)はイノシシの一種であり、家畜化されたブタと似たような部分があるものの、飼育が危険であるために家畜化は成功しなかった。
  5. パニックを起こさない性格
    驚いたときにすぐに逃げだすような性格の動物も飼育しておくのが難しい。例えば、ガゼルは素早く走り、高く跳ぶことができるので、囲まれた牧場から簡単に逃げ出せる。パニックに陥りやすいという点では家畜化されたヒツジも同じ条件ではあるが、群れをつくる習性がとりわけ強いため、これをヒトやヒトに指図されたイヌによって利用され、群れ全体を制御されている。
  6. 序列性のある集団を形成する
    群れを形成する動物には、個体間で序列性を作り、自身よりも序列上位の個体の行動に倣う習性を、もつ種ともたない種がいる。ウシやウマ、ヒツジなどは前者の典型であり、集団のヒエラルキーの頂点にヒトを据えることで容易に集団のコントロールが可能になるが、同じく群れを作るシカ(トナカイを除く)やレイヨウなどははっきりと集団内の序列を作ることがない。北アメリカ原産のビッグホーンはヒツジの原種であるムフロンとよく似た特徴を具えているが、この一点において家畜化されることはなかった。

6つの条件のうち一つでも欠けると家畜にできないことから、ダイアモンドは『アンナ・カレーニナ』の冒頭を真似て「家畜化できている動物はどれも似たものだが、家畜化できていない動物はいずれもそれぞれに家畜化できないものである」と書いています。

考えてみればどれも当然の条件で、一つ一つを見れば家畜化された動物に共通していることがよく分かります。

 

野生動物が家畜化された時期

野生動物が家畜化された時期には大きな開きがあります。1万2千年以上前の犬と、6000年ほど昔に家畜化された馬では、6000年の違いがある。この違いは動物の分布と扱いやすさと利用目的によって異なっています。実用性のある大型動物の家畜としての歴史は古く、小型の愛玩動物の家畜化は比較的最近となっています。

  • イヌ    1万年 南西アジア、中国、北米
  • ヒツジ 8000年 西南アジア
  • ヤギ  8000年 西南アジア
  • ブタ  8000年 中国、西南アジア
  • ウシ  6000年 西南アジア、インド、北アフリカ(?)
  • ウマ  4000年 ウクライナ
  • ロバ  4000年 エジプト
  • 水牛  4000年 中国
  • ラマ/アルパカ 3500年 アンデス
  • フタコブラクダ 2500年 中央アジア
  • ヒトコブラクダ 2500年 アラビア

(年代は紀元前)
ジャレド・ダイアモンド『銃、病原菌、鉄』より(原著の出版が1998年なので、やや古いかも)

大型の動物は紀元前2500年前までに家畜化されており、それ以降は皆無となっています。実用性があり、かつ家畜に適した性質をもつ大型の野生動物は、すでに家畜化されているということです。

一方、小型動物の家畜化は最近まで行われており、例えばハムスターがペットとして飼われるようになったのは1930年代と、本当に最近のことです。

 

ペット化する家畜

ペットとして定番の犬は、かつては「役に立つ」性質が重視されていました。猟犬や牧羊犬、あるいは闘犬などに用いられていた犬は、それぞれに必要な資質を伸ばすよう、優れた個体を選んで繁殖されていました。

実利面を考慮すれば、賢く従順であり、素早く獲物を追えるスピードとスタミナ、獲物に食らいついて離さないといった性質が必要でした。だから賢く従順で健康であることが前提条件でした。

ところが近代に入り愛玩動物としての需要が高まると、実利性よりも外見が重視されるようになる。すると見た目が重要となり、品種の固定のために健康がないがしろにされるケースも出ています。

自力での出産ができないようなブルドッグや、皮膚病になりやすい品種、さらには遺伝病リスクの高い純血種も生産されています。動物の健康よりも「かわいらしさ」が重要になっています。

この状況は猫も変わらず、折れ耳のスコティッシュフォールドのような品種が作られています。

馬もモータライゼーションにより実用性が減ったために生産頭数は減っていますが、その一方でミニチュアホースという形でペット化されています。馬は大きいから過程で飼うのは難しいけれど、小さくなればペットとなりうるというわけです。そしてミニチュアホースもまた、遺伝的な問題を抱えるケースがあります。ミニチュアホースの遺伝子疾患は致命的なものになりますが、検査をすれば避けられます。

豚もティーカップピッグという形でペット化されています。

つまり家畜に分類される動物もペット化(愛玩動物化)することがあるわけです。豚は別として、一般的に実利性が求められなくなって頭数が減ると、見直しがなされてペットとして繁殖される、という傾向があるという指摘もあります。

なぜ家畜が人間に寄り添えるのか、人間はなぜ動物に癒されるのか。

その答えは利用可能な種を家畜化し、素直な個体を選んで繁殖に用いてきたからということになるでしょう。ペットもまた、人間の都合で繁殖させているのです。

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