引退馬支援の話になると、「JRAはなんとかしろ」という声を耳にします。競走馬に対してJRAも一定の責を負っていますが、「どんなこと」を「どのまで」ならできるか、という視点がすっぽり抜けている。この部分を抜きに、ああしろこうしろと言っても、ただ思ったことを口にするだけで終ります。
競馬主催者に行動をもとめるために必要なことは、JRAやNARの立場として引退馬に何ができそうなのか、ということを考えることです。
そしていま現在、どのようなことをしているかを把握する必要があります。何が必要なのか、何が足りないのかを認識しておかないと、有名な馬の行方が分からなくなるたびに「何とかしろ」に終止してしまう。
引退馬の処遇についての堂々巡りを避けたいために、のよサイトでも福祉について触れてきました。しかし、なかなかうまくいかない。
考えるためのとっかかりとして、とりあえず2020年3月現在、JRAが実際に行っている引退馬支援関連の事業をまとめておきます。
これまでも行っていた馬事振興も、引退馬支援の一つと考えて記載しておきます。
ここに記載したことは、JRAの事業報告書に記載されています。詳しく知りたければ、リンク先を一読してください。
引退馬支援事業
「引退競走馬の養老・余生等を支援する事業」(2020年度)について
事業名: 引退競走馬の養老・余生等を支援する事業
事業主体:引退競走馬に関する検討委員会
事業の目的:引退競走馬を取り巻く環境について、その改善・向上を図ることを目的とする
事業の概要:引退競走馬の養老・余生等に関する取組みを行っている団体等(引退競走馬のセカンドキャリア促進のための活動と併せて、これを実施している者等を含む。)について、検討委員会でその活動が引退競走馬を取り巻く環境の改善・向上等に結びつく優良なものと認められた場合等にその活動を支援する活動奨励金を交付する事業。
支援の対象(候補):交付対象の候補となるのは、以下のいずれかに該当し、その活動を一定の規模で3年以上継続して行っており、本事業の趣旨を理解し、了承する団体等となります。
(1) 引退競走馬の養老・余生等に関わる活動をしている団体等(養老牧場等)
(2) 引退競走馬等の受入れ先に関わる調整・提案等(主に養老・余生やリトレーニング)の活動を行っている団体等(NPO法人等)
(3) 引退競走馬のリトレーニング等の利活用促進と併せて、高齢・引退馬対策(養老・余生的な活動)となる活動を行っている団体等(乗馬クラブ等)
注記: その他これらと同様と考えられる活動を行っている生産・育成牧場等、あるいは、小規模・個人レベル等で行っている者が該当することもあります。
2018事業年度 事業報告書
6.馬事振興
項目 内訳 具体的な内容
(1)東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会への協力
○ 東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会
の馬術競技会場となるJRA馬事公苑の全面的な整
備工事を進めるとともに、(公財)東京 2020 オリン
ピック・パラリンピック競技大会組織委員会と「東
京 2020 オフィシャルコントリビューター契約」を締
結し、前述の整備工事に加え、会場整備に係る財政
支援及び馬術競技の円滑な運営に協力
(2)乗馬の普及 ○ 各事業所において、一般市民やスポーツ少年団を対象とする乗馬指導、初心者を対象とする乗馬教室
を開催
○ 馬と直接触れ合う機会を拡充するため、全国の事業所において、「馬に親しむ日」をはじめとする馬事
イベントを開催
○ 各競馬場において、「体験乗馬・馬車」「誘導馬によるお出迎え・お見送り」「ポニーとのふれあい」等を
実施
○ 乗馬人口の拡大を図るため、(公社)全国乗馬倶楽部振興協会、(公財)三木山人と馬とのふれあいの森
協会が実施する乗馬普及事業に対して助成
(3)引退競走馬のセカンドキャリアの促進支援
○ 引退競走馬に関する諸課題への取組みとして、競馬サークル関係者による「引退競走馬に関する検討委員会」(平成29年12月発足)を4回開催
○ JRA馬事公苑(宇都宮)等で引退競走馬を乗用馬等へ転用するための調教(リトレーニング)方法の研究を実施
○ 障害者乗馬やホースセラピーを実施する各団体の活動を支援
(4)馬術の振興
○ 本会主催大会として、内国産馬限定の「ジャパンブリーディングホースショー」を開催
○ JRA馬事公苑(世田谷)が使用できないことに伴い、「関東高等学校馬術選手権大会」や「日本乗馬少年団連盟馬術選手権大会」等多くの競技会に東京競馬場を貸与するとともに、大会主催者や大学等馬術部の費用負担増に対する補助を実施○ 本会事業所周辺の高校や大学の馬術部及び乗馬クラブに対して、技術指導を実施
○ 馬を取扱う担当職員の技術向上を目的として、JRA馬事公苑の馬術系総合職員による乗馬技術や競走馬の再調教技術に関する各種講習会を実施
○ 競馬関係者の馬への理解や取扱技術の向上を図るため、馬術系総合職員による講習会を両トレーニング・センターで実施
○ 日本の馬術の振興を図るため、(公社)日本馬術連盟が実施する馬術振興事業に対して助成
(5)馬事文化の発展への寄与
○ 馬の博物館では、馬と人との交流によって生まれた様々な文物を常設展示し、特別展として「天野喜孝展 天馬」「猪熊弦一郎展 馬と女性たち」を開催。また、継続イベントとして、定期的に馬とのふれあいイベントである「乗馬デー」「にんじんタイム」を実施したほか「馬にちなんだ立版古を作ろう」「馬の折り紙体験」などの馬に関するワークショップを開催。更に在来馬保護チャリティーを各競馬場で実施
○ 競馬博物館では、秋季特別展としてガイドツアー付きの「メジロ牧場の歴史~“白と緑”の蹄跡」、「武豊騎手JRA通算4,000勝達成記念展」を開催。また、館内を大幅リニューアルし4面マルチ体感シアターなどを設置したほか、お子様向けのイベントとして「乗馬服試着記念撮影会」「馬をえがいてみよう」等の馬に関するワークショップや馬の博
物館と連動した「天野喜孝展 天馬」を開催
○ 「Gate J.」(新橋・梅田)では、「GⅠレース展望」「草野仁Gate J.プラス(グリーンチャンネル公開収録)」などを実施
○ JRA賞馬事文化賞の選考にあたっては、書籍・映像・展覧会をはじめ幅広い分野から馬事文化に関わる作品等、約360点を対象に候補作品を絞り、2度の選考委員会で審議を重ねた結果、『競馬と鉄道あの“競馬場駅”は、こうしてできた』(著者:矢野吉彦氏)を馬事文化賞に選出。また、競馬解説を通じて永年にわたり馬事文化の発展・振興に功績のある原
良馬氏に功労賞の授与を決定
○ 馬事文化の発展に寄与するため、宮崎育成牧場等において、各地に伝承されている伝統馬事芸能を披露
○ 日本在来馬の保存を目的として、(公社)日本馬事協会が行う日本在来馬8種の保存活用推進事業に対
して助成
(6)次世代育成 ○ 獣医系・畜産系学生を対象とした研修として、競走馬総合研究所における「馬臨床サマースクール」
や日高育成牧場における「サマーセミナー」・「スプリングキャンプ」を実施
○ 幼少期から馬への理解を深め、生き物を通じた豊かな人間性の形成に寄与するよう、事業所から実馬を派遣し「小学校出張授業」を実施
○ 乗馬に取り組む子供たちの目標となる大会として、全国ポニー競馬選手権「第10回ジョッキーベイビーズ」を実施(全国8地区の代表決定戦で8名の選手を選出し、決勝大会を10月7日に東京競馬場で実施)
2020事業年度の事業計画
6.馬事振興
我が国の馬文化を支え、競馬を健全に発展させるため、馬事文化の発展や乗馬の普及につながる取組みを積極的に行い、馬事の振興に努めます。
(1) 東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会への協力
① 競技運営に関する支援・協力
東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会における馬術競技の円滑な開催に向けて、同競技の会場となるJRA馬事公苑を(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に貸与するとともに、施設管理、獣医師や馬取扱技術者の派遣等、競技運営に関する支援・協力を行います。
また、こうした国際的なスポーツイベントへの協力を通じて更なる馬事振興や競馬事業への理解促進を図ります。
② JRA馬事公苑の整備
組織委員会が行う観覧席等の仮設施設・オーバーレイ工事及び競技大会後の解体・撤去等を支援します。競技大会後には、今後の日本の馬事振興の拠点に相応しい施設とするため、さらにJRA馬事公苑の整備工事を実施します。
(2) 乗馬の普及
乗馬人口の底辺拡大を図るため、各事業所において、「乗馬教室」や「馬に親しむ日」等を開催します。また、競馬開催時には、お客様に「馬」への理解を深めていただけるよう、体験乗馬や馬車試乗会等、馬と触れ合うイベントを実施します。
(3) 引退競走馬のセカンドキャリアの促進支援
引退競走馬の利活用促進及び福祉の充実を図るため、乗用馬や競技馬への転用等、セカンドキャリア促進を支援するとともに、これに資するリトレーニング技術の研究・検証に取り組みます。また、障害者乗馬やホースセラピー活動の支援等に取り組み、引退競走馬をはじめとする馬の多様な利活用の促進を図ります。
(4) 馬術の振興
馬術の振興及び技術の向上を図るため、馬術競技会の開催や馬術競技等に関する諸事業への協力を実施するとともに、こうした取組みにより、競馬開催や馬術の指導等の業務に必要なJRA職員その他競馬関係者の技術の向上を図ります。
また、馬術競技への更なる興味喚起を図るため、東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会の馬術競技を契機とした映像情報の提供等、積極的な情報発信に努めます。
(5) 馬事文化の発展への寄与
「馬の博物館」及び「競馬博物館」における展示、「JRA賞馬事文化賞」の表彰等を通じて、馬事文化の発展に寄与するとともに競馬への理解を促進します。また、全国各地に伝わる伝統馬事芸能等の馬事文化や在来馬種の保存に協力します。さらに、競馬情報発信基地「Gate J.」(新橋・梅田)を通じて、競馬や馬に関する幅広い情報を提供します。
7.持続的な発展に向けた取組み
中央競馬の持続的な発展のために、社会貢献活動、環境問題及び信頼される組織の運営に積極的に取り組み、社会に愛され信頼される中央競馬を目指します。
JRAは畜産振興を目的とする特殊法人
忘れていけないのは、JRAは畜産振興事業を目的とする組織であることです。農水省の監督下にある特殊法人という枠で運営されています。
食肉となることは畜産の一部であり、それを否定するのは無理です。
もちろん、犬猫と同じ扱いにしろという世論が多数を占めれば扱いは変えられるかもしれません。しかし、使役動物としての扱いも否定されることになります。
そもそもJRAも地方競馬も競馬という興行の施行者であり、どの馬が勝とうが、それで利益を得るわけではありません。
もちろん施行者として一定の責任はあります。現代社会において、動物の福祉の向上は義務と言っていい。
しかし「福祉」は「人間が食べるためだけに」産まされる牛豚鶏にも適用される概念です。馬の福祉を向上させたからといって「屠殺」を否定するものではありません。
「処分」をなくしたいのであれば、引退馬を受け入れられるだけの生産頭数にするしかないですよ。
処分はやむなしというなら、どの程度までならよしとするのかはっきりさせないことには、「またか」で終わります。それでいいなら筆者は構いませんが、堂々めぐりが嫌なら、筋道をたてて考えるしかありません。
誰が引退後の競走馬の責任を持つのか 「処分」はいけないことなのか日本国内サラブレッド(軽種)生産頭数推移 ~2018