JRA 女性騎手減量の論点

2019年3月1日(金)より、JRAでの女性騎手の通常競走での負担重量が2kg軽減されます。

女性騎手は一律2kgの負担軽減となりますが、最大で4kgという制限が設けられています。そのため騎手免許取得後の30勝までの見習騎手期間は男性が3kgなのに対し、女性は1kg 減の 4kgとなります。

この軽減は地方およびJRA所属の騎手に限定され、海外からの騎手には適用されません。

ようは30勝未満では4kg、31勝から100勝までは3kg減となる。100勝以上もしくは騎手免許取得後5年以上経過したら、一律2kg減ということです。

騎手免許取得後5年未満の騎手騎手免許取得後5年以上
または101勝以上の騎手
30勝以下31勝から50勝51勝から100勝
男性騎手▲3kg減量△2kg減量☆1kg減量減量なし
女性騎手★4kg減量▲3kg減量◇2kg減量

 

負担重量1kgの差がレースにどのくらいの影響を及ぼすかははっきりしていませんが、シンガポールターフクラブには1マイル=1600m で1馬身差、2400mでは2馬身差という数字が掲載されています(正しくは2400m では0.5kgで1馬身差)。

シンガポールターフクラブ ハンディキャップの影響

ハンディキャップの影響
シンガポールターフクラブ

コースや馬場状態にもよりますが、2kgの差を単純計算するとマイル(1600m)で2馬身差、クラシックディスタンス(2400m)で4馬身差がつくことになります。

2400m 以上のレースともなれば、計算上は5馬身差、タイムにして1秒以上の差ということに。

 

地方競馬ではすでに1kgの負担軽減が行われているからか、JRAでの導入に反対の声はみかけませんでした。

一部スポーツ紙では「ななこルール」などと酷い表現をしていましたが、それ以外はほとんど話題にならずの印象です。

藤田菜七子騎手にしてみれば「せいいっぱい乗る」としか言えないだろうに、デリカシーに欠けるというかなんというか。

後に続く女性騎手のことも踏まえての導入とはいえ、タイミングが悪いのも事実ではありますが…。

 

目的は女性騎手の騎乗機会拡大

JRAは負担軽減の目的を、女性騎手の騎乗機会の拡大を図るためとしています。過去の女性騎手が騎乗機会に恵まれず、JRAに女性騎手がいなくなってしまった過去を鑑みての措置です。

女性騎手が少ないのは日本に限ったことではなく、海外でも女性騎手は騎乗機会に恵まれない傾向にあります。

女性の騎乗数が少なく男女の人数的な不均衡が生じているため、女性の騎乗機会数の是正が必要とする考えがあります。

フランスではJRAに先立つこと2年前の2017年3月1日より、重賞競走・リステッド競走(準重賞)など一部を除くレースで、女性騎手の負担重量2kg軽減を行っています。

その理由は負担重量軽減で女性の騎乗機会を増やすこと。騎乗機会の不均衡の是正のために導入されました。

 毎年フランスの騎手学校に入学する生徒のうち60%は女性であるが、2016年に平地競走で20勝以上挙げたのはマリリンヌ・エオン(Maryline Eon)騎手とルアナ・ララン(Luana Lalung)騎手だけであり、障害競走においては20勝以上挙げた女性騎手はいない。

ロトシルト会長はこう語った。「女性あるいは男性がこれを公平と感じるかどうかは問題ではありません。女性騎手に2キロのアローワンスが適用されることで、調教師が馬主に”調教でこの馬にとても上手く乗る女性騎手がうちの厩舎にいます。アローワンスがあるので、男性騎手を乗せるのと同様のチャンスがあるでしょう”と言いやすくなるかどうかが論点です」。

女性騎手に2キロのアローワンスを適用(フランス)(2017/02/20) – ジャパン・スタッドブック・インターナショナル
2017年02月20日

JRAも同じく騎乗機会の是正を理由を掲げていますが、フランスでは暗に「公正さ」は問題ではないと伝えている点が異なります。

公正かどうかは問題論点にはしない、つまり政治的な判断であることを言外に含めています。

男性騎手と女性騎手の能力差と斤量についての科学的根拠はないため、負担重量の設定は試行錯誤とならざるをえません。フランスでは軽減措置導入1年後の2018年3月1日には、負担重量を2kgから1.5kgに変更しています。

 

問題は2つある

女性騎手の負担軽減に賛成にしろ反対にせよ、問題は2点あります。

  • 負担重量が相対的に重くなる男性騎手との公正さの問題
  • 馬術競技は男女が同じ条件で競える唯一と言える競技という建前が崩れる

武豊騎手が女性騎手の減量規定を海外の流れに沿ったものと書いていましたが、2017年に女性騎手2kg軽減を導入したフランスでは、1年後には1.5kgに減らしています。

 フランスギャロ(France Galop)は、画期的な女性騎手へのアローワンス(減量制度)の導入後9ヵ月間の効果についてレビューを行った。その結果、減量特典が調整されることとなった。障害競走では現行の2キロが維持されるが、平地競走では3月1日から1.5キロに引き下げられる予定。

平地女性騎手への減量特典を2キロから1.5キロに調整(フランス)- ジャパン・スタッドブック・インターナショナル
2017年12月28日

男女の体力差として2kg減に科学的根拠があるのなら女性騎手の勝鞍が増えようがなんだろうが続ければいいところですが、そうではないから変更ができるのです。

フランスでの負担重量変更の理由は、2kg減量で女性騎手の勝利数が飛躍的に伸びたため。

 

武騎手はブログで、女性騎手の負担重量軽減措置は「海外の流れに沿ったもの」と書いています。確かにそういう考え方もありますが、一方で反発もあります。

女性騎手の騎乗機会が増えることから賛成する声がある一方で、馬術競技に男女差はないから特別扱いは不要とする人もいます。

努力で勝てると頑張っている女性からしたら、男女差を理由に下駄を履かされて勝ったと思われれば嬉しさは減ります。当然の感情です。

 

2018年頭に競走馬騎手の成績に男女差はないという研究が発表されています。素直に考えると、男女の筋力の差はあっても、何らかの形で補うことができるということになります。

しかしその一方で女性騎手が騎乗機会に恵まれない現実もある。能力的に同じでも機会がなければ意味がない。

格差是正のために女性騎手の負担軽減の導入は必要とされてもいます。

しかし機会の是正と公正さの兼ね合いは、社会全般の論点になります。

日本の競馬も国際化が進み、日本から海外のレースに挑戦する馬も多数いるいまこそ、文化としての競馬はどうあるべきかについて、ファンも意識していいころでしょう。

そして世界を知っている武騎手は、発言の根拠や背景も示すべきだとしばしば感じます。

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