動物の福祉が具体的にどんなものかが理解できるおすすめの一冊
動物の権利を推進するNPO「アニマルライツセンター」が、動物の福祉に基づいた家畜の扱いを分かりやすく解説した冊子「日本の動物達に起きていることー畜産」を2019年1月に発行しました。
動物の福祉の目的から日本の現状と世界の流れを網羅しており、動物福祉を知るための入門書として最適な一冊です。
「動物の福祉」とは、科学的な根拠に基づいて、できるかぎり家畜動物に苦痛を与えないように扱うことを目的とした考え方です。
家畜動物に与える苦しみを極力少なく飼育する。屠殺の際にも可能な限り痛みや苦痛を与えない方法を用いることで、家畜動物のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させることを使命としています。
家畜の利用を前提としているため、屠殺・食肉そのものは否定されません。むしろ屠殺が適切に行われているかを監視する方向にあるため、「屠殺=かわいそうだからやめよう」という考え方はしません。
客観的な根拠に基づくため、「かわいそう」といった感情による恣意性を排除することができるのですが、日本では「かわいそう」により屠殺について話すことを忌避するためか、なかなか理解されません。
「日本の動物に起きていること」では、動物の福祉とはどういう考え方をするのか、日本の畜産の現状と世界の動向はどうなっているかが、動物の福祉に目を向けたことのない人にも分かりやすく解説されています。
愛玩動物である犬猫も福祉の対象に含まれますが、この冊子はペットとは異なるいわゆる「家畜動物」の扱いについてのみ触れています。また、馬については書かれていないので、引退馬についての直接的な参考にはなりません。しかし、畜産動物をどう考えるかといった視点は得られます。
具体的に書かれているために非常に分かりやすいのですが、擬人化が多いきらいはあるので、そこでどう感じるかは人それぞれだと思います。
中には動物の権利と耳にしただけで鼻白む人もいるかもしれません。しかしこの冊子は動物福祉に焦点を絞っており、「動物の権利」を守るべきといった思想的な部分は皆無です。
その理由は巻末にこう書かれています。
動物の苦しみを出来るだけ早く、できるだけ多く、なくすことが私たちの目的だ。「動物の苦しみは少ないほうがいい」という1 点にだけ賛同できるようであれば、私たちの目的は同じである。
動物を利用するにしても「せめてつらい生をおくらせるのはやめたいよね」には、同意できる人が多いでしょう。
動物の苦しみをどうすれば減らせるか。なぜ日本は動物の福祉が遅れていると言われるのか。世界の潮流とどれだけの乖離があるのか。
動物福祉の現状を知っていれば、オリンピックの掲げる持続可能性についての報道も理解しやすくなります。
動物福祉への対応はここ10年で目まぐるしく変化しているため、門外漢には追いかけるのも大変ですが、本書では2018年12月までの情報が集約されており、ソースを探すにも便利なものになっています。
「日本の動物に起きていること」には、無料のデータ版(PDF)と印刷版があります。
印刷版はアニマルライツセンターまたはYahoo!ショッピングで1,000円+送料で購入できます。
PDF版は無料で頒布されており、メールアドレスを入力して簡単なアンケートに答えると、ダウンロードリンクから入手できます。
動物福祉についての本を手にしたことのない人は、先入観なしで一読してみてください。
岩波ブックレット『アニマルウェルフェアとは何か』 動物福祉入門書