JRA・栗東の高田潤騎手が、障害レースの馬場状態と安全性について、ツイッターで解説しています。解説というか、騎手視点での認識という方がいいのか。
オジュウチョウサンが5連覇を果たした4月18日に行われた中山グランドジャンプで、シングンマイケルが転倒事故で死亡。
当日の馬場状態が不良であったことから、馬場状態と怪我のリスクについてSNSで騒ぎになっていたことを受けての発言です。
JRAウェブサイト掲載情報
今日の出来事4月18日(土曜) シングンマイケル号が競走馬登録抹消
1番 シングンマイケル号(金子 光希騎手)
10号障害飛越着地時に転倒したため競走を中止
馬:頚椎関節脱臼(死亡)
騎手:頚椎捻挫
筆者注)生産牧場のツイッターにより、転倒前に心臓発作を起こしていたことも伝えられています
高田騎手は同レースでヒロシゲセブン(6着)に騎乗していました。
中山GJ当日は不良馬場であったことから、馬場状態そのものに問題があったのではないか、不良馬場での長距離は馬の体力が持たないのではないか、という意見があったようです(筆者は見てなかった)。
障害レースについて、いくつかのコメントをいただきましたが、その中で殆どの方が間違った解釈をしている部分があります。
台風や雪は別として、
障害レースにおいて最も危険な馬場というのは、大雨でも不良馬場でもなくて、スピードが出過ぎる芝が短く刈られた超パンパンの硬い良馬場なんですよね…— 高田潤 (@zunzunzunbow) April 21, 2020
重馬場→クッション有り、
パンパンの良馬場→脚に衝撃・負担がかかるって事ですよね…?— クマプー (@kumapu1223) April 21, 2020
そういうことです。
— 高田潤 (@zunzunzunbow) April 21, 2020
レース中の視界
雨でも前は普通に見えますよ!
前が見えないのは雪のときです。
馬は、単純にスピードがあがれば上がるほど、飛越は低くなり高く飛べなくなります。
芝コースを使用する新潟,中京などの置き障害が小さいのはそのためです。— 高田潤 (@zunzunzunbow) April 21, 2020
ヨーロッパの障害レースとの違い
日本の障害競馬だと、飛越後に馬が滑って騎手が落馬することが多いように見受けます。イギリスなどは前脚が踏ん張れずに馬がつんのめって騎手が落馬します。
障害の難易度を上げ、ペースが落ちるようにすることは安全対策になりますか?— yu sugawara (@telewk2015) April 21, 2020
フランスでの騎乗経験もありますが、そもそもヨーロッパと日本では根本的に馬場の質が違いますので、障害を変えるだけでは対策にならないと思います。
ちなみに先週土曜日の中山の不良馬場は、フランスではごく当たり前の馬場です。— 高田潤 (@zunzunzunbow) April 21, 2020
馬場と馬の肢への負担
障害戦で最も脚にかかる負担が大きいのは着地時にかかる衝撃で、硬い馬塲だと着地の時に脚にかかる衝撃が大きく、スピードが乗っていれば尚更その衝撃は大きくなってしまいますし・・・
逆に柔らかい馬塲だと着地の衝撃を馬塲が吸収してくれる
と考えてます。
合ってますかね?— 鳳凰 (@bkmpvlofo0602) April 21, 2020
まさにその通りです。
— 高田潤 (@zunzunzunbow) April 21, 2020
最近のJRAの馬場は何度も改良されていて、非常にコンディションが良く走りやすいです。
JRAは毎年全競馬場の馬場状態と故障率のデータをとって日々改良してくれています。ただ、異常気象などで芝が伸びないとか雨が全く降らないなどの理由で、ごく稀にカチカチの馬場になってしまうことがあります。
— 高田潤 (@zunzunzunbow) April 21, 2020
馬の体力と馬場状態・馬場状態によってペースを調整
脚元への負担という意味では高速馬場の方が危ないとは思います。ただ不良馬場の障害はスタミナ面ではかなりの負担なのではないでしょうか?先日のシングンマイケルもかなりタフなレースになった事で心房細動を起こして最後の飛越で力尽きたとは言えないでしょうか?
— ゆうや (@junjunj0729) April 21, 2020
非常に良いご指摘です
確かに不良馬場ではいつも以上にスタミナが奪われます。その為、騎手はいつもよりペースを落として走らせます。先週のグランドジャンプのタイムはご存知でしょうか?オジュウチョウサンは自身の持ち時計より20秒遅く走っています。不良馬場だから心房細動になるとは考え難いです— 高田潤 (@zunzunzunbow) April 21, 2020
中山グランドジャンプ、過去5年間のタイムと馬場状態
中山グランドジャンプ J・G1
中山競馬場 4250メートル(芝・外)定量 障害4歳以上オープン(国際)
オジュウチョウサン 勝ち時計(一着馬のタイム)
- 2020 天候 雨 芝 不良 2020/04/18 5:02.9
- 2019 天候 晴 芝 良 2019/04/13 4:47.6
- 2018 天候 曇 芝 良 2018/04/14 4:43.0(レコード)
- 2017 天候 曇 芝 良 2017/04/15 4:50.8
- 2016 天候 曇 芝 良 2016/04/16 4:49.4
障害競走は斤量(負担重量)が重めに設定されている他、比較的距離が長くなっているのもスピードを出させないためです。
以前はよく俎上に挙げられていた高速馬場と故障の関係も、タイムが早くなればなるほど故障が増えるわけではない、というデータが報じられることによって取り沙汰されなくなっています。研究者やJRA公式の視点だとデータがないから断言できないという状況は多いでしょうから、現場の声を伝えるのは効果あるかな。
予後不良・死亡は、中央競馬だけでも年に数十件発生しています。有名馬の事故が騒ぎになるたびに、無名で弱い馬は省みられない競馬の残酷さを感じています。
高田潤・日本中央競馬会騎手 栗東トレーニングセンター所属
Wikipedia – 高田潤
Twitter – 高田潤 (@zunzunzunbow)
競馬ラボ連載 – 「FEEL潤!!」高田潤騎手公式コラム