5月の下旬に話題になっていたオリンピック会場での自撮りSNS投稿禁止規約ですが、どうあがいても個人がネットで撮影した動画を公開するのは無理だそうです。
五輪競技のSNS投稿禁止というのは、その競技のチケット所有者は会場内での撮影をすることはできるものの、その動画をネットで公開できないというオリンピックのチケット購入規約のこと。チケット購入時にこの規約に同意を求められるため、どうやっても公衆送信ができないという状況になります。
ようは会場で撮った動画を個人として楽しむことはできるけれど、SNSやブログなどにアップすることはできないという制約が課されてしまう規約のことです。
動画のネット公開を禁じる部分
東京オリンピック2020のチケット購入・利用規約の第33条(撮影)4項では、ネットへの配信、配布などができないと規定されています。が、よく読むとその前に「IOCの事前の許可なく」の文言がついています。
第33条(撮影)第4項
会場内で撮影または録音された動画および音声については、IOCの事前の許可なく、テレビ、ラジオ、インターネットその他の電子的なメディアにおいて配信、配布(その他第三者への提供行為を含みます。)することはできません。
素直に受け取れば、IOCの事前の許可があれば配信や配布ができると読めます。予め許可を得ておけばいいんだ!となるのですが、そうはうまくいかないらしい。
事前に許可を得ればOK?
第33条(撮影)4項の「IOCの事前の許可なく」「配布できない」のだから、素直に読めば許可を得れば配布=SNSへの動画投稿・公開もOKとなります。
「なんだ、公開する手立てはあるじゃん」と思ったのですが、そうは問屋がおろさなかった。
事前の許可を得るための申請窓口が用意されるのか、どのような手順が必要なのかを問い合わせたところ、返ってきたのは申請そのものができないとのつれない返事。
個人では動画の公開申請そのものができないそうです(この部分が緩和されることはないだろうとのこと)。
「許可があればいいような文言があるのに納得いかねー」と思ったのですが、考えてみたら第33条3項に「保有する一切の権利をIOCに移転する」という箇所があります。
東京2020 チケット購入・利用規約
33条
3.チケット保有者は、会場内において、写真、動画を撮影し、音声を録音することができます。また、チケット保有者は、IOCが、これらのコンテンツに係る知的財産権(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)について、チケット保有者もしくはその代理人に対する金銭の支払や、これらの者から別途許諾を要することなく、単独で権利を保有することに同意し、さらにチケット保有者は、これらのコンテンツについて保有する一切の権利(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)をIOCに移転するとともに、その著作者人格権を行使しないことに同意します。
チケットを所有していると、保有する知的財産権全てがIOCに移転される規約になっています。当然ながら公衆送信権もIOCに持っていかれるため、そもそもなにかする権利を有していないということに。
著作権法
第23条
- 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
- 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
撮影に関するチケット購入規約
購入・利用規約の33条を一通り眺めてみると、1と2は映される側としての同意事項。
東京2020チケット購入・利用規約
第33条(撮影)
1.セッションは公開のイベントであり、セッションが行なわれる会場内やその周辺におけるチケット保有者の様子・行動は、その性質上、公になるものであること、また、セッションにおけるチケット保有者の振舞いについてプライバシーが保証されるものではないことをあらかじめご了承ください。2.チケット保有者は、当法人、IOC、IPC、またはブロードキャスター、ニュースメディア、ソーシャルメディアネットワーク、IF、NOC、もしくはOCOG等のIOCから委任を受けた第三者によって、ご自身が撮影され、録画され、特定され、その他の方法により記録されること、また、これらの者が、本大会期間中または期間後において、無償で、適用される法律において最大限存続し得る限りにおいて(少なくともパブリックドメインになるまで)、あらゆるフォーマット、メディア、テクノロジー(現在存在するものに限らず将来開発されるものも含みます。)を通して、商用か否かを問わず、祝典において、あるいは直接または間接的にオリンピック競技大会、オリンピックムーブメントおよびIOCの発展に関連して、それらの写真、動画、録音物等を使用することに同意します。
3.チケット保有者は、会場内において、写真、動画を撮影し、音声を録音することができます。また、チケット保有者は、IOCが、これらのコンテンツに係る知的財産権(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)について、チケット保有者もしくはその代理人に対する金銭の支払や、これらの者から別途許諾を要することなく、単独で権利を保有することに同意し、さらにチケット保有者は、これらのコンテンツについて保有する一切の権利(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)をIOCに移転するとともに、その著作者人格権を行使しないことに同意します。
4. IOCは、前項を前提としたうえで、チケット保有者が会場内で撮影・録音したコンテンツを個人的、私的、非営利的かつ非宣伝目的のために利用することができる制限的かつ取消可能な権利を、チケット保有者に対して許諾します。ただし、チケット保有者は、会場内で撮影または録音された動画および音声については、IOCの事前の許可なく、テレビ、ラジオ、インターネット(ソーシャルメディアやライブストリーミングなどを含みます。)その他の電子的なメディア(既に存在するものに限らず将来新たな技術により開発されるものを含みます。)において配信、配布(その他第三者への提供行為を含みます。)することはできません。
5.チケット保有者は、会場内およびその周辺において指定されている「撮影禁止区域」、および当法人、IOCその他これらの者から権限を与えられた者によって指定された制限エリアにおいて、撮影、録音その他の一切の記録行為をすることはできません。
6.チケット保有者は、宣伝や賭け事の目的で、会場内において行なわれるイベントに関するスコア、統計データその他の情報を収集、配布、送信、発行してはなりません。
3と4は、会場内では撮影ができるので、それを個人で楽しむことはできる。しかしそれを公表することはできない。また、撮影した写真や動画の知的財産権はIOCに渡るという条項。
5は撮影禁止区域では撮影するなというもの。6は宣伝と賭け事の目的ではスコアなどを公開してはいけない、というもの。
5は仕方ないにしても、3と4でおもいっきり制約がかけられています。
撮影に関して抜け道はないらしい
どこかに穴はないかと考えたのですが、どうにもダメっぽいです。「チケットを購入せず規約に同意しなければ撮影できるじゃん!」というひらめきも、チケットがなければ会場に入れない時点で意味はなし。そして撮影禁止区域ではチケットがあろうがなかろうが撮影できない。
- 会場内は撮影はできるが個人使用のみ
- SNSへの投稿は不可
- 個人では撮影した動画・音声の公開許可を得ることはできない
- 会場または会場周辺の撮影禁止区域では撮影できない
(許容される範囲は個別ケースとして訊いたのですが、基本的にオリンピック会場と識別できるようなコンテンツを公開することはだめらしい)
これらの制約を踏まえると、ネットでは鍵アカや非公開設定で知人同士での共有しかできないという結論に。
撮影禁止区域外から建物を撮る程度であればうるさくは言われないと思うので、そのくらいで我慢するしかないのでしょう。