車をはじめとするエンジンを使う機械で用いられる 「馬力」。
馬力は仕事率の単位として定着していますが、実は国際単位系 (SI)には含まれていません。そのため公式には「馬力」は用いられず、SIで定められているキロワット (kW)が使われます。
しかし「馬の力」という力強いイメージからか、200馬力、280馬力といった単位が併記されているのを日常的に目にします。
では、1馬力とはどのくらいの力なのでしょう。
1馬力とは
現在の日本で用いられている1馬力はフランス馬力です。単位記号はPS。PSはドイツ語の Pferdestärke の略。Pferdは馬、Stärkeが力なので、文字通り馬力です。
英語も文字通り馬力 HP(Horse Power) と表記されますが、同じ「馬力」でも単位が違うために使い分けられています。
日本で用いられるフランスの1馬力(1PS)は、 ワットに換算すると735.5W。
200馬力(PS)なら147.1kW(キロワット)にあたります。
フランス馬力(PS)は75 kgのものを1秒間 に 1m 持ち上げられる「仕事率(パワー)」を表しています。横に引っぱる力ではなく、縦方向に持ち上げる力です。
馬力は「1秒間にものをどれだけ動せるか」という仕事率なので、一定期間動かした結果は仕事(量)になります。
ちょっと分かりにくいですね。
75kg のバーベルを1m の高さまで持ち上げるボディービルダーを例に考えてみます。
時間がどれだけかかろうが、75kgのバーベルを1m持ち上げるという結果は変わりません。1m 持ち上げるのに必要な”力”を「仕事」といいます。
一方、仕事率は1秒間にどれだけの力を発揮したかの尺度です。75kgのバーベルを1秒で1m の高さまで持ち上げたボディービルダーは1馬力を、10秒かけて持ち上げた場合は0.1馬力を10秒間発揮したことになります。
仕事 → 結果として使われたすべての”力”
仕事率 → 1秒間に使われた”力”
1馬力で1時間75kg の男の人を持ち上げ続けると 1m x 3600 で3.6kmの高さまで達します。1馬力の力で1時間持ち上げられると、計算上は富士山の山頂まで届くことになります。
ボディービルダーは1馬力を1時間連続で出し続けるのは無理!ですが、馬ならそれができてしまいます。
単位としての馬力
馬力はイギリスとフランスのもので定義が異なり、上述したように日本では仏馬力を用いています。
フランス馬力 (PS):735.498 75 W(日本では735.5ワット)
イギリス馬力 (HP):745.699 871 582 270 22 W
イギリス馬力の定義
馬力の発祥の地イギリスではヤード・ポンド法が用いられていたことから、ポンドを基準として定義されています。
イギリス馬力 (HP):745.699 871 582 270 22 W
単位記号はHP(Horse Power)
HPは1秒間に550重量ポンド (lbf) の重量を1フィート (ft) 動かすときの仕事率と定義されています(550 lbf·ft/s)。
550ポンドという数字は実際の馬の仕事から、馬は一秒間にこのくらいの仕事率を発揮しているだろうとジェームズ・ワットが「決めた」ものです。
フランス馬力の定義
フランス馬力は先述のように、75 kgのものを1秒間 に 1m 持ち上る仕事率です。
1仏馬力 (1PS) = 735.5 ワット(日本)
(正確には735.498 75 W)
単位記号はPS(ドイツ語:Pferdestärke)。
1馬力を一般に使われる 1kW に換算すると、1.36馬力になります。
もともとイギリスの単位を1フィートあたり1メートル当たりに変換した上で、ポンドを kg の切りのいい数字にしたら、75kg になったということです。定義から比較してみると、PSとHPは近似していることがわかります。
イギリスポンドは1秒間に550重量ポンド (lbf) の重量を1フィート (ft) 動かすときの仕事率と定義されています(550 lbf·ft/s)。
重さも距離も単位系が異なるのでややこしいですが、1ポンドは0.45kg、フィートは0.3m。
大雑把な計算ですが、550ポンドは248kgに相当します。動かした距離1フィートを1メートルあたりに換算すると1/3.3。
1秒間に248kgを1フィート持ち上げる。1フィートを1メートルに換算すると3.3倍の距離が必要になります。となると248kgも必要はなく、1/3.3の重さのものでいいため、248/3.3≒75kgということになります。
ついでに W(ワット) の定義
1 ワット(W) は1秒間に1ジュールの仕事が行われるときの仕事率。1ジュールは102gのものを1m持ち上げる仕事です。
こんな定義を見ても分かりにくいので、実際に計算してみましょう。
電気の場合は、V(ボルト)×A(アンペア)がW(ワット)になります。
電圧が 100V の日本で 10アンペアの家電を使うと、100V×10=1000W
1000W = 1kW なので、10アンペアを使うと1kWということになります。
30Aの家庭なら、3kWでブレーカーが上がることになり、この値は4馬力にあたります。
馬力は継続できる仕事率
18世紀に蒸気機関を発明したジェームズ・ワットは、当時さまざまな場所で動力として使われていた馬の力と比較することで、自らの製品の優秀性をアピールして売り込もうとしました。
これまで述べてきたように馬力は瞬間に発揮できる「瞬発力」ではなく、一定期間継続的に発揮できる仕事率を表しています。ワットは鉱山で4時間働くポニー発揮する力を計算し、普通の馬ならその1.5倍の力があるだろうと「馬力」を定義しました。
つまりワットが定義した馬力は、労働力としての馬が4時間という一定の間に平均的に発揮できる仕事率ということになります。現代から考えると想像しにくいことですが、馬が動力源であった当時は持続力は重要でした。
ワットの見積もりはかなり甘いとされていますが、自分の発明した機械の優秀性をアピールできればよかったため、そう厳密に考えていたわけではないようです。
そもそも1トン近くある大型の輓馬と 200kg そこそこのポニーとでは、その力は全く違います。あくまで目安として単位を作ったと考える方がよいでしょう。
馬力は馬が継続して発揮できる力(仕事率)ということは、当然のことながら馬の瞬発力はもっと大きくなります。競走馬なら15~20馬力程度(仏馬力)が出せるとされています。
仕事率の具体例
人間 | 1馬力 | 継続的に発揮できる仕事率は0.1 – 0.2馬力程度 |
原動機付自転車 | 4.5 – 7.5馬力 | |
競走馬 | 15 – 20馬力 | 継続的に発揮できる仕事率は2 – 3馬力程度 |
軽自動車 | 40 – 64馬力 | 自動車馬力規制(1987年)による上限 |
四輪自動車 | 64 – 300馬力 | ものによっては1000馬力を超す |
大型トラック、大型バス | 250 – 600馬力 | 世界最大のものは4000馬力 |
F1カー | 700馬力 | |
零式艦上戦闘機 | 1130馬力 | 22型・52型栄 (エンジン) |
蒸気機関車 | 1400馬力 | 国鉄D51形蒸気機関車 |
戦車 | 1500馬力(約) | 機密扱いの為正確な数値は不明 |
貨物列車 | 2000 – 8000馬力 | |
小 – 中型ヘリコプター | 124 – 3600馬力 | 小型機:R22 – 中型機:UH-60 |
大型輸送ヘリコプター | 1万2300 – 2万2480馬力 | CH-46 – Mi-26(世界最大) |
新幹線 | 2万3200馬力 | N700系電車16両編成 |
プロペラ機 | 200 – 2万馬力 |