海外レースの馬券 国内からブックメーカーを利用するのは合法か違法か

2016年から海外レースの馬券が国内でも発売されるようになり、国外の競走もより身近に楽しめるようになりました。
凱旋門賞やドバイワールドカップに挑戦する馬を純粋に応援+馬券的にも応援することができる。

が、発売されるのは日本調教馬が出走するレース、かつ農水省の指定するレースのみ。いかに強い馬が英チャンピオンステークスに日本から挑戦しても、国内で馬券を買うことは叶いません。

海外競走馬券 JRAの発券対象レース2018

そんな時に利用できるのが海外のブックメーカー、なのですが。
現地政府(賭博委員会など)から正式に認可を受けているブックメーカーであっても、日本国内からの利用は違法行為となる可能性があります。

あいまいな日本の海外ギャンブルサービス利用

やっかいなのが、違法である「可能性」であること。判例がないため違法なのか、合法とみなせるのか、罰せられないだけなのかはっきりしていません。

海外に本拠地を置くオンラインカジノを利用して摘発された人はそれなりにおり、ほとんどが略式裁判で罪を認め罰金を払っています。

そんな中、略式裁判を受け入れることを不服として弁護士を立てたところ、不起訴処分となった人がいます。

私は昨年から,いわゆるオンライカジノをプレイしたとして賭博罪の容疑を受けた人の弁護を担当していたのであるが,これにつき,不起訴を勝ち取ったのである。

昨年,オンラインカジノをプレイしていたユーザー複数が賭博罪の容疑をかけられた。

彼らのほとんどは,略式起訴されることに応じて(これに応じるかどうかは各人の自由である)軽い罰金刑になることに甘んじたのであるが,そのうち1人は,刑を受けることをよしとせず,略式起訴の打診に応じず争いたいとの意向を示した。弁護を担当したのは私であった。

 

本件は,海外において合法的なライセンスを取得しているオンラインカジノにつき,日本国内のパソコンからアクセスしたという事案である。

この形態の案件は,従前検挙された例がなく,違法なのかどうかがはっきりしない状況になっていた。

賭博をやったのは認めるが,そのような状況で不意に検挙されたのが納得いかない,というのがその人の言い分であった。

不起訴の勝ち取りーオンラインカジノプレイヤーの件 麻雀プロ弁護士津田岳宏

不起訴処分にも、起訴猶予(十分立件できるけれどあえてしないケース)から嫌疑不十分(立証できるだけの証拠がない)まであるため、不起訴処分というだけでは、内実は分かりません。

嫌疑をかけられた人にとって不起訴は嬉しいことですが、白黒はっきりつかないままになってしまいます。

検察が起訴した事件の99%以上が有罪になるのは知られた話ですが、ようは有罪に持ち込めそうにないケースは起訴してないだけ。
結果としてはっきりしない状況になっています。

国内からの海外合法賭博サービスの利用が「無罪」という判決が出ていれば心配なく遊ぶことができます。
しかし現状では、不起訴となった人はいるものの、依然として摘発される可能性があります。

 

海外ギャンブルサービス、合法か違法かは解釈が割れている

国内から海外の賭博サービスを利用することが法に触れるのか触れないのか、見解が割れています。

合法とする立場

合法とする論拠は「必要的共犯」、賭博の胴元と賭博をした人があって罰することができるという考え方。国内で賭場を提供した人と、そこを使う人が共に罰せられる。しかし海外では合法な胴元の賭場で賭けをした場合、胴元が罰せられることはない。すると遊んだ人だけが罰せられてしまうというおかしなことになってしまうというもの。これは違法とする判例がある(後述)。

しかし、論点はそこではないとするのが津田岳宏弁護士。

賭博行為について,刑事責任のメインは開張者(胴元)が負うのであり,賭博者(客)が負う責任はある意味で付随的である。

賭博犯の捜査は胴元の検挙を目的におこなうものであり,「賭博事犯の捜査実務」にもその旨記載がある。

そこには,些細な賭け麻雀を安易に検挙すべきでない旨の記載もある。胴元のいない賭博を安直に検挙することをいさめる趣旨である。

 

以上を踏まえたとき,本件は,主たる地位にある一方当事者を処罰することができないにもかかわらず,これに従属する地位にある当事者を処罰することができるのか,という点が真の論点となる。

サービスそのものは合法なのに、利用した側は罰せられるのは確かに違和感があります。

 

違法とする立場

違法とする論拠は、カジノ研究者木曽崇氏のウェブサイト、カジノ合法化に関する100の質問 を参考にします。

木曽氏は階猛衆議院議員に頼んで政府に下の質問主意書を提出してもらいました。

一 日本国内から、インターネットを通じて、海外で開設されたインターネットのオンラインカジノに参加したり、インターネットで中継されている海外のカジノに参加することは、国内のインターネットカジノ店において参加する場合だけでなく、国内の自宅からインターネットを通じて参加する場合であっても、刑法第185条の賭博罪に該当するという理解でよいか。

二 上記一の「日本に所在する者」にサービスを提供した者には、国内犯が適用されるか。すなわち、海外にサーバを置いて賭博サービスを提供する業者にも、賭博開帳罪(同法第186条第2項)が成立し得るという理解でよいか。

三 賭博罪の成立要件とされる必要的共犯に関して、 共犯者の片方(賭博に参加する者)が国内、もう片方(賭博開帳者)が国外に所在する場合に共犯関係は成立し得るのか。片方を罰する事が出来ない(非可罰的な)状態にあっても、両者による共犯関係を立証することが出来ればもう片方の者の罪は成立し得るのか。
出所:http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a185017.htm

 

これに対する回答がこちら。

衆議院議員階猛君提出賭博罪及び富くじ罪に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する

一から三までについて
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、また、賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがあるものと考えられる。
出所:http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b185017.htm

政府の一般論としては

  • 賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法第百八十五条の賭博罪が成立することがある
  • 賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがある

こういうこと。

 

「海外にサーバーを置いたネット賭博は違法ではない」の主たる根拠となる「賭博罪は必要的共犯である」については、最高裁判例の存在を指摘しています。

常習賭博被告事件

【事件番号】最高裁判所第2小法廷判決/昭和23年(れ)第1340号
【判決日付】昭和24年1月11日
【判示事項】
一 不當拘禁中の勾留日數を本刑に算入しなかつたことと憲法第三四條
二 常習賭博罪と賭博開帳罪との關係
三 共犯者中賭博開帳犯人の有無と賭博常習性の認定

【判決要旨】
一 たとい被告人等に對する勾留が不當なものであつたと假定しても、それに對しては各種の救濟の方法を規定しているのであつて、その未決勾留日數を本刑に算入しなくても憲法第三四條に違反するものではない。

二 常習賭博罪と賭博開帳罪とは刑法第一八六條の第一項と第二項とに分けて規定されて居るのであつて、もともと兩罪は罪質を異にし、且その構成要件も何ら關聯するところがないのであるから、兩罪が同一條件下に規定されて居るからと云つて、所論のように不可分の關係にあるものと即斷することは出来ないし、又兩罪は全然別個の犯罪事實に關するものであるから、所論のように正犯と從犯の關係にあるものでないことも極めて明白である。

三 賭博常習性の有無は専ら、各被告人個人の習癖の有無によつて決せられることであるから、本件賭博の共犯者中に賭博開帳罪に該當するものがなく、又同罪によつて處斷されたものがなかつたとしても、それによつて被告人兩名に對する常習賭博罪の成立が阻却される理由は少しも存しない。

出所:https://www.hanreihisho.net/cgi-bin/eoc/hanreibodyctl.cgi?DOC=/docs/HANREI/HSRD0L/0410/00410002.html&HWORD=HS

カジノ合法化に関する100の質問 : ファイナルアンサー: オンライン賭博は違法である

 

行政の考え方

行政が直接オンラインカジノの違法性に言及しているケースはありませんが、カジノの有料会員になると儲かるという詐欺の相談の紹介と注意喚起を行っています。

  • インターネット上であっても、国内で賭け事をすれば犯罪行為となる可能性があります。
    海外のオンラインカジノのサイトであっても、国内から参加した場合、刑法で定める「賭博罪」に該当する可能性があります。
    (参考:衆議院「質問答弁情報」外部サイトへリンク
  • 人を誘うことで自分が加害者になることもあります。
    「紹介料欲しさ」に安易に知人を誘うことは、あなたの信用を低下させ、友人・知人関係を壊すことにつながる可能性があります。また、誘われた人から損害賠償を請求されることも考えられます。違法・不当な行為につながるおそれのある勧誘に加担しないようにしましよう。

「オンラインカジノで一儲け」?不審な誘いに乗らないで!~海外のサイトだから問題ない?そんなことはありません!~ | 東京くらしWEB

 

 また、オンラインカジノは海外の事業者が運営するものであり、トラブルが発生した場合、被害回復は極めて困難となりますので、「簡単に儲かる」などといった甘い話には十分御注意ください。もし、トラブルに巻き込まれた場合は、早めに消費者ホットラインに相談してください。

【相談】オンラインカジノに御注意ください! | 青森県消費生活センター

東京都は賭博罪の可能性があると指摘。それに対し、青森県消費生活センターでは違法性については触れていません。

 

違法なのか合法なのか

ここまで見たように、法理の上ではどちらが正しいかはっきりしません。判決がないことには判断のしようがない。

普通に考えれば違法ということになりますが、検察が不起訴にしたという事実があります。「捕まっても弁護士立てて裁判もやったろやんけ!有罪になっても自分が合法だと考えているのだから構わない!」という人なら利用してしまってもいいでしょう。

しかし一般論としては、海外賭博サービスを国内から利用するのはアウトの可能性があるとしか言えないでしょう。

海外競走馬券 JRAの発券対象レース2018

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